彼は本当は、可哀想な人などではなく、幸せな人なのではないだろうか。

 生涯一人だけを愛し、死んでゆく。

 それほど一途な想いがこの世にどれほどあるだろう。

 そしてその愛する人の誕生から死に逝くまでを一番近くで見ることができる。

 生まれながらに言葉を超えた、想いを超えた「血」という繋がりがある。

 そんな幸福はないだろう。

 だから私も、以前の彼が言っていたように、世の中の常識に囚われず、自分だけの幸せの形を見つけなくてはいけない。

 それを見つけられた時、私は初めて廈織くんを好きでいてよかったと自分に胸を張って言える気がする。

 隣に立てる気がする。


「君はバカだなぁ……ボクなんかのために、マドンナの涙はもったいないよ」


 ふざけた調子で笑いながら私の頭をポンポンと優しく撫でる廈織くんは今、私の中で世界一かっこいい男の子だ。


「あなたもバカよ、色男」


 負けじと鼻をすすりながら言い返すと、彼はいつもの調子でクククと喉を鳴らして笑った。


「バカ同士、気が合っていいじゃないか。ほら、ボクらは一緒だよ」


「ふふ、本当」


 胸につかえていたもどかしさが一つ消え、私は素直に笑うことができた。


「ほら、早くここを片して皆に合流しよう。ボクらが行く前に、花火がなくなったら大変だ」


「そうね」


 私は彼に相槌を打ち、後片付けを再開した。