「……どうして?」
その声は、今まで聞いた彼の声の中で一番に優しい響きで私の鼓膜を揺らした。
「廈織くんは優しくて、強くて、自分のことも人のこともしっかり見て分かってるから……私なんかと一緒にされちゃダメな人なの……! 傷付けたかったわけじゃないし、軽蔑してもいないから怒ったりしないで……私のこと、嫌いにならないで」
言いながら、涙が次々と溢れた。
自分の中にある彼を理解しようとする気持ちにズレが生じていたのは、あの日からずっと。
私はまだ彼の共犯者としての告白を受け止めきれていない部分があった。
身近でそういった話を見たことも聞いたこともなかった私は、近親間の恋愛とは小説や漫画の中だけの作り物だと思っていた。
偏見は持っていないつもりだったが、いざ現実を目の当たりにすると、どうしても理解しきれない部分がある。
そんな私の身勝手が生んだのが彼への同情だ。
「ボクはそんなにすごい人間じゃない、君の過信だよ。怒ってなんかいないから、そんなに怯えた顔して泣かないで? 女の子に泣かれると、調子が狂うよ」
参ったように苦笑いを浮かべながらうなじを掻く廈織くん。
「ごめんなさい」
鼻をすすりながら涙を拭った私は、自分の考えを改めなければと思った。