私と廈織くんの「一途」は全くの別物だ。
私の場合、一つの恋が終わってしまったなら、前に進むため、自分の経験として強くなるために次の新たな恋を求める。
本来それが世の中の普通であり、大衆の意見だろう。
けれど廈織くんには、そんな誰もが歩むべき道――――別れた後に向かう「次」が欠落していた。
彼が愛するのは生涯に一人だけであり、たった一人の血を分けた妹。
「久藤花音」だけなのだ。
「君はボクに何を言いたいの? ボクらの抱えるものが違うのは、あの日から分かってたことだろう。今さら何があるっていうんだよ。君はボクを傷つけたいの?」
「違っ!」
うつむいていた私が顔を上げて見たものは、怒った顔をした彼の姿。
あの日とは、彼と「共犯者」になった時のこと。
あの瞬間から始まった私たちの関係は、とても曖昧で、壊れやすいものだったのに。
均衡を保っていたのは、互いの秘密を握り合い、胸に秘めるという、なけなしの「信頼」だった。
それを私は、自らの手で破り捨てようとしていた。
自分と彼は違うのだと決めつけ、不毛な想いを抱く「かわいそうな人」だと身勝手に思い込んだ。
それは私から見た彼の姿であり、ただの同情。
「じゃあ何?」
「私……私は……」
射抜くような視線に刺され、目が泳ぐ。
だから言ったのに。
私と彼は違うんだって。
私たちの決定的な差は、迷いの有無だ。
私には、一生をかけて想いを貫く覚悟がない。
そんな私のような人間を、彼と同じ枠にくくりつけていいはずがないのだ。
「私、アナタが怖いの……」
口からこぼれた本音に、彼は疑うように細めた瞳を大きく開いた。
驚いたのだろう。私の瞳から流れた一筋の涙に。