ますます、座敷童子というのが胡散臭い。座敷童子が家にいるとその家は栄えると言うが、栄えるどころか衰退しそうである。
「お前――、本当は貧乏神か疫病神だろう?」
『失礼な男やな。俺の何処に貧乏神要素があんねん』
「いや、十分にあるぞ」
開店して数ヶ月、店の売り上げは一向に伸びない。
 相手をしているのが馬鹿らしくなってきた俺はパソコンを開いた。
「お、おお、おおおおっ!」
 パソコンを睨み始めて間もなく、朝飯が運ばれる筈だった俺の口は、感動と驚きで満たされた。
『何ごとや?』
「食べログに投稿されたんだよ、俺の店」
『……感動を味わっている所を悪いが、キーボード、コンソメ味にするなや?』
 奴の指摘がなければ、俺はコンソメスープを危うく、パソコンキーボードに垂らす失態をやらかすところであった。票数を聞く奴に、俺は「一票」と答えると、俺の感動が奴の沈黙で冷やされていく。
 確かに、まだ一票なのである。票を上げるのはメニュー開発をし、広報活動もしなければならない。
『妖怪がいる店なぁんてどうや? 俺、あっちの世界に知り合いぎょうさんおるし、紹介したるで?』
「やめろ、ばか。うちの店で百鬼夜行などしてみろ、人間の客が来なくなる」
『かえっていい宣伝になるのとちゃうか?』
「絶対やめろ!」
 妖怪に堂々と出られたりしたら食べログではなく、魔界スポットランキングに投票されかねない。

 俺は、頭にバンダナを巻くと調理台の前に立った。
店の前身は、俺の祖母・梅乃が経営していた『おばんざい屋 うめの』である。
 祖母に育てられた俺は、自身の躯がおばんざいで出来ていると言っても過言ではない。
 そんな祖母が、俺にだけ作る『お子様メニュー』
 ハーバーグにスパゲッティ、海老フライにコロッケ――。
 食べる俺を見てくる祖母の笑顔が、俺は現在でも脳裏に浮かぶ。
 おばんざい屋の暖簾を仕舞った後も、寝るまで明日の仕込みをしていた祖母・梅乃。
 そんな祖母に、俺は聞いた事がある。辛いと思った事は、ないのかと。

 ――店をやっていて辛い事はあらへん。確かにしんどい時もあるけれど、うちの料理を楽しみに通うて来てくれるお客はんがいる。うちの料理を食べて美味しいって言うてくれる人がいる。うちの料理で人を少しでも温かい気持ちになってくれはるんやったら、それでええ。