すっかり居座る事を決めた奴に、俺の拳がふるふる震える。
 何でも、最近の妖怪は現代社会に合わせないと生きるのが厳しいらしく、座敷童子男は棲みつく家の主に合わせたのだという。言っておくが――、俺は奴とは違ってチャラ男ではないし、態度もデカくはない、たぶん。
 明日になれば、消えているだろうと。
 ――が。
『ぐっともーにん♪清太郎』
 奴は、まだいた。
「……消えろ」
『ルールメイトやろ。俺たち』
「勝手に決めるな! 即出てけ、いやあの世へ戻れ」
『まぁまぁ、ええやないか』
 俺としてはちっとも良くはないのだが、こいつは人の話を聞いていない。
 まさか俺は妖怪が視えるとは思っていなかったが、昼間の妖怪と言うものは何とも情けない。
 室内では人間の姿でいられるが、太陽に当たると透けてしまい能力がなくなってしまうのだそうだ。
 奴は「おっと……」と言いながら、陽射しを避けながら移動をしている。
 とりあえず、メニュー開発をしなければならない。
 俺はヒヨコがプリントされたエプロンをして、使い古しのバンダナを被っていているという何とも情けない姿だが、開店する時には新調するつもりである。
 冷蔵庫には、鶏胸肉と卵、玉葱にパセリ、キャベツと、試作中のピクルスが入っていた。
「これで出来る料理といえば――」
 俺はふと、報告をしていない相手が、もう一人いる事を思い出した。
 俺はエプロンを外すと、出掛けることにした。
『何処に行くん?』
「俺の第二の師匠に会いにな」
 座敷童子男は俺の『第二の師匠』に興味津々だが、着いていくことが出来ず悔しがった。
  

祖母が亡くなった七年前、京都に戻ってきた俺はバイトを転々とし、一軒に居酒屋に落ち着いた。
 祖母の店で俺も料理がしたいという夢があった俺は調理師学校より、飲食業界で働く道を選択したのだ。何しろ、食っていないといけない。飲食店から賄いも出るし、腕も磨ける。
  その居酒屋は河原町にあり、大手フランチャイズ店のような店舗ではなく個人経営の店で、店名は『居酒屋ドラゴン』と言った。
 店長の竜平さんが、自分の名前からつけたそうだ。
 その竜平さんが、俺が『第二の師匠』と呼ぶ人である。
 俺が『居酒屋ドラゴン』を訪ねるのも、竜平さんに会うのも凡そ一年ぶりである。
「――清太郎?」
「ご無沙汰しています。竜平さん」