「お母さんを、今度この京都に呼んで案内してあげようと思っているんです」
「よかったですね。仲直りできて」
「貴方のおがけです」
「俺は何もしていませんよ。偉そうな事を言ってすみません」
「そんな事ありません。このお店に来なかったら、もしあのポテトコロッケを食べていなかったら、私と母の溝は埋まらなかったと思います」
 俺はポテトコロッケに何かを入れたわけでも、特別な作り方をしたわけでもない。だが、一見質素なポテトコロッケが、親子を再び結びつけ事は確かだろう。
「このパンケーキも最高」
「ありがとうございます。いやぁ、デザートも意外に難しくて……」
 ホイップクリームはなかなか泡立たず、手は痛くなるやらダマになるし、パンケーキは焦げるし、何度も失敗した。
 礼子さんはこの京都の町で、頑張ってみるといい「また来ます」と席を立った。
「いつでもお待ちしています」
 俺の言葉に、礼子さんはにっこりと笑って店を出て行った。
『ええ娘やったなぁ。彼女』
「手、出すなよ」
『俺のイケメンぶりに嫉妬するのはわかるが……』
 座敷童子男はチャラ男の上に、ナルシストか?
「……お前の自慢の顔に、妖怪退治のお札を貼ってやるよ」
 ついでに、口は縫ってやる。
 座敷童子は壁の隙間に逃げ込んで「清太郎は、彼女募集中の札でも顔に貼っとき」とほざいた。
 余計なお世話である。 
 奇妙な生活は、これからも続くのだろう。
座敷童子がいる、不思議な洋食屋『一期一会』
今度、あの入り口を開けるのはどんな客なのか。
 時を告げる梵鐘の音が、ゴーンと余韻を残して市内に響き渡っていた。