「貴方にはいい大学に入って、いい会社に入って、幸せな家庭を築いて欲しいと思っていたの。何故、そんな不安定な仕事をするの? 京都まで行かなくても、東京に大学はいくらでもあるじゃない。家からだって通えるじゃないの」
母親の言葉に、玲子さんは言ったそうだ。
「お母さんこそ、どうして私を束縛するの? どうして自由を奪うの? 私は、お母さんの人形じゃない!!」
その後、玲子さんは家を飛び出してしまったそうだ。
彼女の手元では、皿に載ったポテトコロッケがある。
東京を離れて五年、夢を叶える為に必死に頑張ったのだろう。念願のイラストレーターとなり、母を見返せると礼子さんは思っていたという。
「――お母さんの言う通りだった。彼とこの京都に来たのに、彼は突然私の前からいなくなった。一年して、町で偶然再会したの。彼の隣には私の知らない女の人がいて、彼は私の顔はもう覚えていなかった。酷い話でしょ?」
グラスの中で、溶けかけた氷が崩れてカランッと音を立てる。
俺が、水をグラスに補充すると礼子さんは再び話し始めた。
「イラストレーターになったと言っても、頂ける仕事は僅か。ワンルームの部屋が、最近はとても広く感じるの」
移り住んだ時は狭く感じられた部屋、なのに何が足らない。
そんな部屋で一人寂しく食べる食事は、少しも美味しくなかったそうだ。
結局自炊する事もなくなり、コンビニで惣菜を買ってくるだけとなった。
家に帰る頃には冷め切ったポテトコロッケを前に、礼子さんは涙が止まらなかったらしい。
お母さんに会いたいな――。
彼女の心の声が、俺には聞こえた気がした。
愚痴や悩みを聞いて欲しいのは俺ではなく、本当は母親なのではないか。
恐らく、礼子さんの中ではもう結論が出ている。
東京へ帰ろう。母の待つ我が家に――。
だがその一歩を踏み出せないまま、五年も経ってしまったのだろう。
「一度――、電話をしてみてはどうですか?」
礼子さんが、静かに顔を上げる。
「お客さんが羨ましいです。俺は両親の顔を知りませんから」
俺の両親が生きていたら、俺が料理人になると言ったら何と言ったのだろうか。
「ごめんなさい。初めてお会いした人なのに……」
「気にしないでください。急に仲直りはできなくても、関係修復は少しずつでもいいんじゃないんですか?」
母親の言葉に、玲子さんは言ったそうだ。
「お母さんこそ、どうして私を束縛するの? どうして自由を奪うの? 私は、お母さんの人形じゃない!!」
その後、玲子さんは家を飛び出してしまったそうだ。
彼女の手元では、皿に載ったポテトコロッケがある。
東京を離れて五年、夢を叶える為に必死に頑張ったのだろう。念願のイラストレーターとなり、母を見返せると礼子さんは思っていたという。
「――お母さんの言う通りだった。彼とこの京都に来たのに、彼は突然私の前からいなくなった。一年して、町で偶然再会したの。彼の隣には私の知らない女の人がいて、彼は私の顔はもう覚えていなかった。酷い話でしょ?」
グラスの中で、溶けかけた氷が崩れてカランッと音を立てる。
俺が、水をグラスに補充すると礼子さんは再び話し始めた。
「イラストレーターになったと言っても、頂ける仕事は僅か。ワンルームの部屋が、最近はとても広く感じるの」
移り住んだ時は狭く感じられた部屋、なのに何が足らない。
そんな部屋で一人寂しく食べる食事は、少しも美味しくなかったそうだ。
結局自炊する事もなくなり、コンビニで惣菜を買ってくるだけとなった。
家に帰る頃には冷め切ったポテトコロッケを前に、礼子さんは涙が止まらなかったらしい。
お母さんに会いたいな――。
彼女の心の声が、俺には聞こえた気がした。
愚痴や悩みを聞いて欲しいのは俺ではなく、本当は母親なのではないか。
恐らく、礼子さんの中ではもう結論が出ている。
東京へ帰ろう。母の待つ我が家に――。
だがその一歩を踏み出せないまま、五年も経ってしまったのだろう。
「一度――、電話をしてみてはどうですか?」
礼子さんが、静かに顔を上げる。
「お客さんが羨ましいです。俺は両親の顔を知りませんから」
俺の両親が生きていたら、俺が料理人になると言ったら何と言ったのだろうか。
「ごめんなさい。初めてお会いした人なのに……」
「気にしないでください。急に仲直りはできなくても、関係修復は少しずつでもいいんじゃないんですか?」