――人の縁は一期一会(いちごいちえ)
 
 店を始める時、俺は店の名を『一期一会』に決めていた。
 一期一会の意味は「あなたとこうして出会っているこの時間は、二度と巡っては来ないたった一度きりのものです。だから、この一瞬を大切に思い、今出来る最高のおもてなしをしましょう」だという。
 かの千利休は「もう一度同じ人と茶会をするとしても、前回の茶会と今回の茶会は違うものでそのひとつひとつが「一期一会」であり大切にする」という意味で使ったそうだ。
 俺が料理の道へ行こうと決めたのは、祖母・梅乃の影響が高いだろう。
今日のランチメニューは、ポテトコロッケセット。
 ほくほくのじゃがいもと混ぜ込んだミンチ肉のバランスが、何とも言えないバランスなのだ。
 じゃがいもを、皮ごと茹でて後から皮を剥いて潰す方法と、皮を剥いて茹で、茹で上がったら今度は粉ふきいもになるまで火に掛けてから潰す二通りがあるが、俺のやり方は後者である。
付け合わせには、千切りキャベツは欠かせないだろう。
俺が料理を学んだバイト先『居酒屋ドラゴン』では、俺がキャベツの千切り担当であった。
 キャベツ三玉をひいひい言いながら毎日刻み、翌日は筋肉痛であった。
 故に、キャベツの千切りは大いに自信がある。
 サラダやフライ物の付け合わせにするのであれば、少量を千切りする方法が、千切りを細くシャキッと仕上げることが出来る。その後、水にさらしておけば尚更である。
 衣のパン粉も自家製で、ポテトコロッケは揚げるだけである。
 隣には鍋に入ったコンソメスープ。具はキャベツと人参だ。
 不意に、店の玄関戸がカラッと開いた。
「ランチの時間、まだだったでしょうか……?」
 入って来たは、若い女性である。
 花柄のワンピースに身を包み、髪はポニーテールにしている。
「え……、あ、いえ」
 思わず、敬語が曖昧になる。
 座敷童子が側で『笑顔で接客』と言って寄越す。
 俺は「わかってるよ」と小声でいい、ぎこちない笑顔を顔に張り付かせた。
「――いらっしゃいませ」
「はじめ、和食レストランかと……、お店の外観も和風ですし」
「良く勘違いされるんです。うちは、洋食屋です。亡くなった祖母の家でもあるんですが、古いモノは大事にしろという教えでして」