疲れ切っていたのか、その日は早々に眠ってしまった。
湿気た布団は重く、全身にのしかかってくるようで、起きた時にやけに疲労を感じる。食欲がなかったので、コップ一杯の水を飲み干すと、そのままノロノロと掃除を始めた。流石に店の方までは手が回らなかったが、家の中がさっぱりすると、少しは気分が晴れたような気がする。
溜まりに溜まった郵便受けの整理もした。その時、不動産のチラシやら、ダイレクトメールの中に、「完済証明書」が紛れているのを見つけて、まじまじと眺める。
「……これが、朧との生活で得たもの」
途端に、それが途轍もなく汚らわしいもののように思えて、ゴミ箱に投げ込んだ。しかし、どうにも気が収まらなくて、台所に持っていき、コンロで火を着ける。
焦げ臭い匂いが充満して、せっかく掃除をしたのにと肩を落とす。そして、そのままずるずると座り込むと、膝を抱えて目を閉じた。
――切り替えなくちゃ。
自分に向かって、必死に言い聞かせる。いつまでも沈んでいたって、どうにもならない。落ち込んでいたって、明日も明後日も私の人生は続いていくのだ。
『主はいらぬ』
「……ッ。もうっ‼」
また、獣頭の神の言葉が蘇ってきて、拳で床を叩く。じんじんと痛む拳に息を吹きかけて、私は無理やり前を向いた。
「落ち込んでばかりいたって、なにも変わらない」
人間は忘れる生き物だ。今はとても苦しいけれど、この気持ちはそのうち薄れるはず。悲しんでばかりではいられない。幸い、私にはやることがある。目の前のことを一生懸命こなしていれば、気も紛れるに違いない。
「よっし! やろう‼」
私は気合いを入れて叫ぶと、打って変わってキビキビと掃除を始めた。
――時折、脳裏に浮かんでくる赤い瞳の化け物から、必死に目を逸して。
湿気た布団は重く、全身にのしかかってくるようで、起きた時にやけに疲労を感じる。食欲がなかったので、コップ一杯の水を飲み干すと、そのままノロノロと掃除を始めた。流石に店の方までは手が回らなかったが、家の中がさっぱりすると、少しは気分が晴れたような気がする。
溜まりに溜まった郵便受けの整理もした。その時、不動産のチラシやら、ダイレクトメールの中に、「完済証明書」が紛れているのを見つけて、まじまじと眺める。
「……これが、朧との生活で得たもの」
途端に、それが途轍もなく汚らわしいもののように思えて、ゴミ箱に投げ込んだ。しかし、どうにも気が収まらなくて、台所に持っていき、コンロで火を着ける。
焦げ臭い匂いが充満して、せっかく掃除をしたのにと肩を落とす。そして、そのままずるずると座り込むと、膝を抱えて目を閉じた。
――切り替えなくちゃ。
自分に向かって、必死に言い聞かせる。いつまでも沈んでいたって、どうにもならない。落ち込んでいたって、明日も明後日も私の人生は続いていくのだ。
『主はいらぬ』
「……ッ。もうっ‼」
また、獣頭の神の言葉が蘇ってきて、拳で床を叩く。じんじんと痛む拳に息を吹きかけて、私は無理やり前を向いた。
「落ち込んでばかりいたって、なにも変わらない」
人間は忘れる生き物だ。今はとても苦しいけれど、この気持ちはそのうち薄れるはず。悲しんでばかりではいられない。幸い、私にはやることがある。目の前のことを一生懸命こなしていれば、気も紛れるに違いない。
「よっし! やろう‼」
私は気合いを入れて叫ぶと、打って変わってキビキビと掃除を始めた。
――時折、脳裏に浮かんでくる赤い瞳の化け物から、必死に目を逸して。