鮮やか過ぎた季節が通り過ぎていくと、世界は途端に色を失っていく。


 自身を飾り立てていた葉を落とした木々は、寒々しい風の中に、細く頼りない枝を晒している。先日まで庭を彩っていた山茶花も、霜に当たって花を散らしてしまった。その代わりと言わんばかりに牡丹が紅色の花をつけて、くすんでしまった庭に、僅かばかりの華やかさを添えていた。


 空からは、ちらちらと白い欠片が舞い降り始め、厚めの綿が入った半纏が恋しくなると、季節が移り変わったのだとしみじみと実感する。


 冬。冬だ。マヨイガに冬が来た。


 霧で烟る異界の家にも、寒々しい季節がとうとう訪れたのである。


 私は、障子戸をうっすら開けて外を眺めると、ため息と共に閉じた。
 ここに来てから、すでに三つの季節を超えてきた。この場所で、朧の嫁として過ごすのもあと僅か――。


 すっかり着慣れてしまった和服を見下ろす。この季節にぴったりの、南天柄の帯を指でなぞり、またため息を零した。そしてゆっくりと顔を上げると、室内に視線を戻す。そこでは、化け物姿に戻った夫が滾々と眠り続けていた。


「朧……」


 そっと、黒い毛並みに触れる。
 艶やかでありながら、やや癖があるその毛は、冬の冷気に当てられてひんやりとしている。一瞬、どきりとして、急いで毛の奥深くに手を挿し入れると、そこにぬくもりを見つけて、ホッと胸を撫で下ろした。


 私は、着物が乱れるのも厭わず、彼の豊かな体毛に体を埋めると、まるでお気に入りのぬいぐるみを抱く子どもみたいに、顔を擦り付けた。