近所の誰かが、線香でも上げに来たのかと、重い体を無理矢理動かす。ぼんやりしていたせいだろう、来客が誰なのかも確かめずにドアを開いた。
「こんばんは」
ドアの外にいたのは、なんとも怪しげな青年だった。別に恰好が怪しいというわけではない。身に纏っているのは、ごくごく普通の喪服だ。
明るめの茶髪で、男性にしては珍しく、襟足だけを伸ばして紅い紐で括っている。黒縁の眼鏡をかけていて、やたらと目が細く、まるで糸のようだ。
「この度は、ご愁傷様です」
怪しく思えたのは、お悔やみを言ったその青年が、微笑みを浮かべていたからだ。しかも、眼鏡の奥の瞳が笑っていない。
青年は、私を値踏みするような目つきで繁々と見ている。初対面のはずなのに、なぜだか態度にトゲトゲしさを感じて、思わず身構えた。
すると青年は、ニコリと、どこか胡散臭い笑みを顔に貼り付けて言った。
「生前、ご両親とは親しくさせていただいておりました。お線香を上げてもよろしいですか?」
「……は、はあ。どうぞ」
そう言われては断るわけにもいかず、戸惑いながらも家に上げる。ドアを閉めようとして――思わず、目を見張った。
外に霧が出始めている。空は晴れ渡り、美しい夕日が顔を覗かせているというのに、これは一体どういうことなのか。
薄ら寒いものを感じて、青年の背を見つめる。
すると、その人はこちらを振り向くと、にんまりと不思議な笑みを浮かべた。
「お邪魔します」
「こんばんは」
ドアの外にいたのは、なんとも怪しげな青年だった。別に恰好が怪しいというわけではない。身に纏っているのは、ごくごく普通の喪服だ。
明るめの茶髪で、男性にしては珍しく、襟足だけを伸ばして紅い紐で括っている。黒縁の眼鏡をかけていて、やたらと目が細く、まるで糸のようだ。
「この度は、ご愁傷様です」
怪しく思えたのは、お悔やみを言ったその青年が、微笑みを浮かべていたからだ。しかも、眼鏡の奥の瞳が笑っていない。
青年は、私を値踏みするような目つきで繁々と見ている。初対面のはずなのに、なぜだか態度にトゲトゲしさを感じて、思わず身構えた。
すると青年は、ニコリと、どこか胡散臭い笑みを顔に貼り付けて言った。
「生前、ご両親とは親しくさせていただいておりました。お線香を上げてもよろしいですか?」
「……は、はあ。どうぞ」
そう言われては断るわけにもいかず、戸惑いながらも家に上げる。ドアを閉めようとして――思わず、目を見張った。
外に霧が出始めている。空は晴れ渡り、美しい夕日が顔を覗かせているというのに、これは一体どういうことなのか。
薄ら寒いものを感じて、青年の背を見つめる。
すると、その人はこちらを振り向くと、にんまりと不思議な笑みを浮かべた。
「お邪魔します」