ゆうらり、ゆらり。


 それほど広くない六畳間の和室で、か細い煙が宙を揺蕩っている。


 独特の香りを纏う煙は、夕焼け色に染められた室内で、やけにはっきりと見える。幾筋もの煙が、刻一刻と姿を変えて細い糸のように宙を泳ぐ姿は、見ていて飽きない。


 けれども、今の私にはそれを楽しむ余裕などなかった。そもそも、その煙は、見る者を陽気な気分にさせる類のものではないのだ。


 私は、真っ赤に泣き腫らした目のまま、あるものを見つめていた。
 それは、優しい笑顔を浮かべた両親の姿。
 その笑顔は、つい最近まで、いつでも見ることができたものだ。
 でも――今は。


「お父さん、お母さん……」


 白くなるほど手を握りしめて、また涙を零す。誰もいない室内。家具があまり置かれていないそこに、大きな仏壇は存在感がありすぎる。


 私は、四角い枠の中から注がれる、どこまでも優しい笑みに見守られながら、ひとり肩を震わせて俯いていた。