顔を見上げると、私は思わず手を顔にあて目を疑った。と同時に溢れんばかりの涙。

「か、和宏……・」

「どうした?元気にしてたか?泣いてばっかりしていないだろうな?」

「そんな、あなた。私、泣き虫なの知ってるくせに。」
言いながら、しっかりと和宏を抱きしめた。今までの沢山の想いと共に涙が頬をつたい流れ落ちる。


今度は和宏が良子を抱きしめかえした。

「、っ……。私ね、ずっと会いたかった。いつまでもこうして抱きしめてほしかった。」
「事故なんて嘘だと思った。ね?ねぇ嘘でしょ?また一緒に暮らせるんでしょう?」

良子の問いに和宏はこう話した。

「7月7日の日。君と出会った。本当、僕にとっては思いがけない出会いだったし、素敵な人とめぐり逢えたと思っている。七夕のように毎年ではないけれど。」

「今日は君に伝えたい事があって、ね。」

「そうでないと心残りで。安心して天国にも行けはしないな。」
良子は聞きたい反面、もう逢えなくなる苦しさの方が辛くて、涙ながらに言った。

「そんなの聞きたくない。だって、だって、私の和宏はこうやって、ここに居るんだもん。また、二人手を取り合って生きていきたいんだもん」

「本当、泣き虫だなぁ。」
なだめる様に微笑みながら、和宏が言う。

そして。
和宏は冷静に良子の肩をつかみ話した。

「悲しいけれど僕はもう死んだんだよ。もう一緒にはいられない。でも、いつまでも君の事を見守っているよ。いつも言っていたでしょう?僕は君の笑顔が一番好きなんだって。」

「うん、分かってる。だから笑顔で頑張ってきてた。あなたの事好きだから……。」

「良子。」和宏は再び良子を抱きしめこう言った。

「良子。愛してる。君だけをずっと愛してる」

それは、生前照れ屋な和弘が頼んでも、最期まで言ってくれなかった言葉。
もちろん、良子もそれを覚えていた。


はっと思い溢れる涙に身を任せながら復唱した。
「私も、愛してる。ずっとずっと……。」

良子は胸を震わせ、和宏のその言葉を体で受け止めていた。

「『愛してる』ずっと言ってあげられなかった言葉だね。ごめんね。」

「ううん、もういいの」

「これで、安心して天国でも行けるよ。」和宏は笑顔でそう囁いた。
心残りだったと。

「和宏……。」
良子は和宏のその言葉に胸がいっぱいになった。

和宏が言う。
「僕はもう何もしてあげられないけれど、君の幸せを願っている。でも最後に、目をつむって。」

良子は目をつむる。
それは、2人デートの帰りに決まってするKissの合図だった。

「愛してるよ。良子」

「私も。愛してる」

唇と唇がふれた。



どれくらの時間が経ったのだろう?
ゆっくり目を開けると、消えていく和宏の影。
にっこり笑って。

「和宏-!」

「わ、わたし。私、今日の事は忘れない。あなたの事も忘れない!想い出は永遠だもの。あなたの言う通り笑顔で生きていくわ。ずっと見守っていてね-!」


言い終えた時には和宏の姿は無く、夕焼け雲がとても綺麗だった。
良子の溢れる涙は星になって、いつまでも天国の和宏と見つめあうだろう。

そして、何も無かったかのようにたたずむ坂道。
良子は溢れる涙を必死で押さえてた。