「ひいっ!!」


摩耶の悲鳴が、その笑い声に混じって聞こえた。


そしてその直後、「えっ!?」という声も。


とにかくここから離れなきゃ。


出口を背にしている摩耶に、白い物を引き付けてもらっている間に。


耳を塞いで、急いで今下りてきた階段に向かって走った。


もうすぐ階段に辿り着ける。


そう思った時だった。






「え!え!嘘でしょ!?やだやだやだ!!そんなのやだ!!どうして……どうして!!ああああああああぁぁぁっ!!」






摩耶の声が……悲痛な叫び声が背後から聞こえた。


私は意味がわからなかった。


まだ私は全然移動していない。


いや、それはこの際どうでも良いとして。


摩耶の後ろに出口があったよね?


それなのに、どうして悲鳴を上げたの?


無理だと思ったら、すぐに出れば良いはずだよね?


いくつもの疑問が頭を過ぎって。


階段の前で、ゾクリと強烈な悪寒を感じた私は、これはまずいと判断して振り返った瞬間。


大きく口を開けた白い物が、私の目の前にいて。


慌てて振り上げた腕に、その歯が食い込んだ。


途端に感じる、凄まじい激痛。


腕から全身へと、強烈な痛みが駆け巡る。


まるで、カミソリの刃が血液に乗って流れているような、身体中が切り刻まれていると錯覚する痛み。


「あ、ああああああああぁぁぁっ!!」


喉が千切れそうなくらい叫んで……。


どうしようもない恐怖と痛みに耐え切れずに。


至近距離で白い物の笑う顔を見ながら、息もできない中で、私は徐々に目の前が暗くなって行った。


心臓が、自分の物じゃないと思うほど激しく動き、その都度全身がバラバラになりそう。


早く!早く殺して!


こんなに苦しいのはもう嫌だ!


果てしなく永く、終わりがわからない苦しみの中で、プツッと糸が切れるように、私は何も感じなくなった。