どうやら、海琉が気付いたように、ピアノの音が聞こえている内は安全なようだ。


二度、白い物に遭遇したけれど、その時にはピアノの音が聞こえていなかったから。


とは言え、大きくも小さくもない、意識しないと流れているのかさえ気付かなくなってしまう程の音量。


聞こえないのに、聞こえないことに気付かないことだってあるのだ。


「大体校舎の形がわかってきたぜ。そんなに複雑じゃねぇけど、うちの学校とは全然違うもんだな」


「海琉は余裕だね。私はそんな風にはなれないよ」


誰かが、ガラスを踏んだ音で白い物に気付かれたと言うなら、私達がガラスを踏んでも気付かれてしまうかもしれない。


ここから離れたとは言え、さっきまで近くにいたのだからなおさらだ。


摩耶は俯いて、口数も少ない。


優しい摩耶のことだ。


きっと、人を見捨ててしまったことが罪悪感となって重くのしかかっているのかもしれない。


「この階は粗方調べたな。次は下に行こうぜ。気を付けろよ。この階にいないってことは、下にはいるかもしれないからな」


何が……なんて言わなくてもわかる。


だけど出口がこのフロアにないなら、下の階に行かなければならないから。


そこに、白い物がいたとしても。