「お前ら隠れろ。廊下側の壁に寄って、出来るだけ低い姿勢で」


途端に心臓が激しく動き始める。


この状況、私は知っている。


昨日もそうだった。


ピアノの音が消えた直後……白い物を見たから。


「そ、それで大丈夫なの!?逃げなくても平気!?」


「知るかよ。でもこの状況で廊下に出るわけにはいかねぇだろ!」


海琉に促されるままに、廊下側の壁に移動し、身を低く屈めて息を潜めた。


声が出ないように、口を手で押さえて。


本当にこれで大丈夫なのかな。


もしも見付かってしまったら、逃げる前に捕まってしまうんじゃないかと、不安で胸が張り裂けそうになる。


そして……それは現れた。


ピアノの音が聞こえなくなった静かな空間。


シャリ……シャリ……と、崩れた天井、そしてガラスを踏み締める音。


小さく、何かを呟いているが聞き取れない声。


私達が知っている、素早く動くそれとは違う。


たださまよっているような、ゆっくりと動く白い物。


本当に、ここにいて大丈夫なの!?


怖くて呼吸が荒くなる。


だけど、抑えないと白い物に聞こえてしまいそうで。


あの死の苦しみだけは、絶対に味わいたくない!