お葬式の会場のセレモニーホール。


まだ式が始まるには時間があって、受け付けにも人がいない。


「少し早く着きすぎちまったな」


「でも、その方がノートを渡せるから。やっぱり、ずっと持っていたくはないからさ」


式場の中に入り、辺りを見回す。


祭壇の所に、親族らしき人達が何人かいて、その中におじさんとおばさんの姿がある。


今ならノートを渡す時間があるかなと、バッグを開けてみると……あった。


今日は間違いなく入れていたし、ないはずがないけれど、ホッとひと安心。


それを取り出し、ホールに足を踏み入れた。


「えっ?」


途端に感じる不気味な雰囲気。


まるで、色んな場所から人に見られているような不快感に襲われ、寒気さえする。


私がお葬式に慣れていないから、そういう雰囲気に弱いのかなと思ったけど……何かが違う。


「どうした若葉。早くノートを……」


立ち尽くしている私を不思議に思ったのか、海琉もホールの中に入って来て気付いたみたいだ。


そして……。






カリッ。





カリッ……カリッ……。



カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ……。


祭壇の方から、何かを引っ掻くような音が聞こえて、私は小さな悲鳴を上げた。