白い物から徐々に離れて、廊下が交差する場所まで下がることが出来た。


「このまま、左の方に移動するぞ。ゆっくりだ、ゆっくりだぞ!!」


「わかってるよ、うるせぇな!!」


こんな状況で、どうすればいいかわからない私は、海琉に支えられながら、白い物から目を離さないように移動する。


大丈夫、大丈夫だ。


こうして目さえ逸らさなければ、白い物は動かないから。


絶望するほどの恐怖の中でも、唯一の救い。


それでも、あの不気味な顔をずっと見続けるのはかなり怖いんだけど。


などと考えていた時だった。





「摩耶!来いっ!!」


「えっ!?こ、光星!?」






左から聞こえた光星と摩耶の声。


一瞬何が起こったのかわからなかった。


「あ、あいつ!俺達を見捨てて逃げやがった!!」


状況を把握しようと、左の方を向くと……光星が摩耶の手を引っ張って、廊下の奥へと走っていたのだ。


そして私は、白い物から目を逸らしてしまったことに気付く。


慌てて視線を戻そうとしたけれど、それはもう遅かった。


白い物の手が、私と海琉を掴む。


歪んだ笑顔を私達に向け、カタカタと口を動かしたまま、それを私達に近付けて来たのだ。


「い、いやあああああああああああっ!」


悲鳴を上げた瞬間、白い物が私の首に食らい付いた。


夢なのに、全身を駆け巡るような激しい痛み。


肉が裂かれ、骨が砕ける痛みが、永遠かと思える程の時間、私を襲って。


突然、落ちるような感覚に包まれて、私の目の前は真っ暗になった。


ほんの一瞬、何か声が聞こえたような気がしたけど、私には何と言っていたのかわからなかった。