目を逸らさずに後退しても、白い物が見えなくなった途端に追い掛けて来る。


あの速度だから、とてもじゃないけど逃げられない。


考えれば考えるほど絶望的な状況に、心臓がより一層音を立て始める。


呼吸は荒くなり、喉が渇く。


これは夢だ、これは夢なんだと言い聞かせても、目の前の白い物の現実感は、脳が夢だと理解してくれなかった。


手足はガタガタと震え、逃げるにしても立ち上がれないほどだ。


「よ、よし……このまま後退するぞ。いいか?目を逸らすなよ?俺達の誰か一人でも見ていれば、捕まることはないんだからな!」


「ちょ、ちょっと待って光星!わ、私、腰が抜けて足に力が……」


皆、既に私よりも後ろにいるのに、今さらに後退されたら私だけ置き去りにされちゃう。


「ったく!しっかりしろよ!ほら、立てるか!?」


そう言って、後ろから抱え上げてくれたのは海琉。


グイッと身体を持ち上げられ、何とか立つことは出来たけれど……足がガクガク震えて歩けるかどうか。


それに、海琉だって手が震えている。


「よし、いいな?そこの角を曲がるぞ?それまでは決して目を逸らすなよ!」


光星の言う通りに、ゆっくりと後退を始める。