「先生、また来ちゃいました」


二限目の授業中、私と海琉は音楽室にやって来た。


「いや、また来ちゃいましたじゃないよね、神崎さんに野澤くん。キミ達は僕を教師だと思っていないんじゃないか?教室に戻りなさいと言った方が良いかな?」


少し怒ったような表情で、鍵盤を弾く手を止めて私達を見る。


「まあいいじゃねぇかよ。俺達だって思うところはあるんだからよ。そう簡単に気持ちの整理なんてつかねぇよ」


教室に入り、椅子に座って大あくびをする海琉。


確かに、悪夢は見なくなったけれど、同級生を失ったり大怪我をしたり。


挙句の果てには幽霊に立ち向かったんだから。


「……わからなくはないけどね。僕だって、一度は逃げ出した悪夢を終わらせたという満足感はあるけど、それ以上にどうしてあの時逃げ出したんだという後悔もある。もしも逃げ出さなければ、キミ達が苦しまなくても済んだんじゃないかってね」


「そう思うなら少しくらい多目に見てくれよ。悪夢は見ねぇけど、寝るのがほんのちょっと怖いんだからよ」


海琉の言う通り、悪夢は見なくなったけど……だからと言って安心して眠れるのかと言われたらそうではなかった。


大丈夫だと思っていても、また悪夢を見てしまうんじゃないかと毎晩怖いのだ。