「ぷはっ!い、痛てぇ……あの野郎、ふざけやがって!」


「か、海琉!え?こ、声が出る!」


なぜ声が出るようになったのかはわからない。


なぜ月菜が篠目ふみに襲い掛かっているのかもわからない。


でも、これは……最後のチャンスだ。


月菜が抑えてくれている間に、声が出る間に。







「アアアアアアアアアアアッ!」







篠目ふみが、月菜を押し返して再び私を見る。


そして、月菜を引きずったままこちらに向かって歩き始めたのだ。


腕が振り上げられる。


それが私の顔に向けられる。


でも……大丈夫!




「あなたは……あなたの名前は、篠目ふみだよ!お願い……思い出して」



その手は私の眼前に迫っていたけど……ピタリと止まったのだ。


「アアアア……篠目……ふみ……」


「そう、篠目ふみだよ。もうすぐ家に帰れるから……もう、一人じゃないから」


私に向けられた手を取り、祈るようにそう呟いた。


すると、真っ黒に染まっていた篠目ふみの身体は、蒸発するように元の色に戻っていった。


真っ白な、白い物に。


そして、生きていたであろう頃の、穏やかな姿に。


だけど、それもほんの一瞬だった。


篠目ふみは……現実で見た、白骨へと姿を変えて。


その場に崩れ落ちたのだ。