ブツブツと、何かを呟いているように口を動かしている。


「私は誰……私は誰……わからない……思い出せない……私は誰……」


「くっ……お前は……はぁっ……」


海琉も必死に声を出そうとしているようだけど、この白い物の圧力に、思うように声が出せないのか。


白い物の目が、ギョロリと私の顔を見た。


こんなことなら、最初に名前を言っておけば良かった。


それが正解なのかすらわからないけど、それでも今よりは絶望を味わうことはなかったはずだ。


手を伸ばす……白い物が、私に。


「くっ……そぉ!!」


その手が私の首を掴もうとした瞬間、海琉が声を上げて、白い物に殴り掛かったのだ。


白い物の頬に直撃し、グリンと首が回転する。


が、その首は一回転し、海琉の胸に顔を埋めた。


バキバキという音が聞こえて、海琉の顔が苦悶に満ちた物へと変わって行く。


「ぐっ……あああああああああああっ!」


激痛に声を上げる。


お願い、一言だけで良いから。


ほんの一言、名前を言うだけで良いから!





そう願った瞬間、私の目の前に人影が現れた。





篠目ふみの首を掴み、強引に海琉から引き剥がしたのは……白い物、月菜だった。