そう言われれば……大きくもなく、小さくもないピアノの音だったから、二人の口論で聞こえなくなったことに気付かなかった。


「本当だね。さっきまで聞こえてたのに……」


そもそもこの音が一体何を意味しているのか、全くわからないんだけど。


「そんなもん、ただのBGMだろ。時間を無駄にしたからな。さっさと出口を探そうぜ」


そう言って、海琉が廊下の方に戻って行く。


「あ、ちょっと待ってよ……」


慌てて、海琉の後を追って、一緒に廊下に戻った時だった。


視界の右側……廊下の奥。


それに海琉も気付いたはずで。


カタカタと、出来の悪いぜんまい仕掛けの人形のように不気味に動くそれに。


ゆっくりと視線をそれに向けると……。


「ひっ!ひぃやぁああああぁぁぁぁっ!!」


私はそれを見て、腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。


「う、うおおおおおおおおおおっ!?な、なんだこいつ!!」


海琉も声を上げ、「それ」を見たのだと言うのがわかる。


真っ白な手、足、そして顔。


セーラー服を着ているようで、余計に白さが目立つ。


それが、恐ろしく醜悪な笑顔を浮かべていたから、今までに感じたこともないような恐怖が、私を襲ったのだ。