今までにない不穏な空気。


心臓がバクバク激しく動き始め、白い物にしがみつかれているかのような、不気味で重さを感じる。


呼吸をすれば、身体の中からカミソリで切り裂かれるような、鋭く冷たい空気で満たされる。


移動どころか、この場所にいるのが無理だと本能で感じてしまうレベル。









「あああぁぁぁ……行かないでぇ。ずっと一緒にいようよぉ……」








身体に付いた印が、悶えるように声を上げ始める。


「黙って。もう、惑わされないんだから」


ここまで来て引き返すなんて出来ない。


「随分雰囲気のある廃墟ですね。でもどうして皆はそんなに苦しそうなんだ……」


何やらドリルのような機械を担いだ丸山さんが、不思議そうに私達を見回して尋ねた。


そうか、丸山さんには印が付いていないし、悪夢も見ていないから何も感じないんだ。


「すまない丸山。全てが終わったら説明するよ。今は、作業に集中させてくれ」


「あ、ああ。はい」


無関係の丸山さんに手伝ってもらってなんだけど、私が丸山さんの立場だったら、こんな廃校に来るのは嫌だろうな。


玄関前を通り過ぎ、階段を上って二階に。


そして左に曲がって音楽室がある校舎へ移動しようとした時だった。






廊下の奥、昼だと言うのに暗い場所に、ハッキリと白い顔が浮かび上がっているのが見えたのだ。


あんな遠い場所にいるのに、その表情までわかる。


その立ち姿に、冷たい空気が肌を撫で回すような悪寒と不快感に包まれた。