ノートを押し当てれば、月菜は消えるかもしれない。


海琉に渡されたノートを、ギュッと胸の前に抱いて。


月菜の手が伸びる。


私の顔に向かって。


「月菜……ごめんね」


目を閉じて、祈るようにそう呟いた。


ほんの一瞬……空気が穏やかになったような気がした。


ゆっくりと目を開けると、真っ白で、気味の悪い笑顔の月菜が、まるで一時停止でもしたようにピタリと止まっていたのだ。


「月菜の苦しみに気付いてあげられなくてごめん。でも、終わらせるから。月菜が安らかに眠れるように、私、頑張るから」


出来るなら、月菜が生きている時に言ってあげたかった。


今になってだけど、その苦しみを分け合えれば、月菜は一人で苦しむことはなかったかもしれない。


「お、おい……」


何が起こったんだと、海琉も不思議そうに見ている。


私だって何が起こっているのかなんてわからないし、こんなことになるなんて思わなかったから。


「ア、アア……若……葉……アア……」


低く、唸るような声を上げて、その目からスーッと一筋の涙がこぼれ落ちた。


「月菜、後は私達に任せて」


そう呟いて、月菜にそっと触れると……弾けるように黒い霧が辺りに飛び散った。