教室の目の前にある階段。


廊下を走っても良かったけれど、それではどうしても途中で呼吸をしてしまう。


月菜がどれくらいの範囲で呼吸を感じられるのかはわからないけど、それなら一階か三階のどちらかに逃げた方がいいと思うから。


移動が簡単な下りの階段。


一階に急いだ私は、階段を下り切ったところで天井の破片を踏んでしまい、その場に倒れた。


「あいたた……靴さえ履いてれば……」


月菜にノートを還せば全てが終わる。


そう思い込んでいたから、玄関で靴を脱いで家に上がったんだ。


それがまさか、こんなになるなんて思わなかったよ。


なんて考えてる暇はない。


慌てて立ち上がり、もっと遠くに逃げないと……と走り出そうとした時だった。


この廃校舎のどこにいるよりも、白い物が眼前にいるよりも強烈な悪寒が私を襲ったのだ。


まるで、氷で作られた刃を、背骨に突き立てられているような。


呼吸を止めようと思っていないのに止まってしまう。


それほど凄まじい悪寒だった。


何……この場所、いちゃダメな気がする。


今すぐここを離れないと、私は死んでしまいそうな気さえする。


そして、私の左側から、恐ろしく鋭い視線が向けられていることに気付いたのだ。