「な、なんだよこりゃあ……俺はまた幻覚でも見てんのか?」


「そ、そうだね。幻覚……うん。これは幻覚だ。波音が生きていた頃、小さな幸せを感じていたあの時のね。やはり、この校舎にはまだ波音が生きているんだ」


二人を見ていると、胸が暖かくなると言うか……和田先生は小さなと言ったけど、とても幸せそうで。


フッと小さく笑った和田先生は、二人がいるピアノに近付いて。


女生徒の背中を覆うように鍵盤に手を伸ばした。


「波音、キミなら浮かぶだろう?キミと僕を繋いでいるあのメロディが」


そう言って、和田先生は鍵盤を弾き始めた。


「……あ。浮かんだかもしれない。こんなのどうかな、和田くん」


女生徒が弾いたメロディは、まだまだ荒削りだったけれど、確かに先生が弾いたそれと同じものだった。


「良いじゃないか。うん、綺麗なメロディだ」


喜ぶ二人を見ながら、和田先生も微笑む。


たったこれだけ。


その幻覚がスーッと消えて、私達の目の前にはボロボロの音楽室が現れた。


「今のは……なんだったんだ?」


「さあ……なんだろうね。波音の意思があるとしたら、どうして僕にこんな幻覚を見せたんだか」