少しして、和田先生の声が聞こえなくなった。


白い物に殺されてしまったのだろう。


早く逃げ出すべきだったと後悔しながら、狭い個室の中で海琉と二人で息を潜める。


「ア……アア、アアアァァ……ア……」


潰れたような声が、廊下の辺りで響いて、白い物が音楽室から出たのだろうというのがわかった。


足音が聞こえない。


動いているのか、立ち止まっているのかさえわからない。


もしかすると、このトイレに入って来るかもしれないと、聞こえるであろう足音を聞こうと、全神経を耳に集中させる。


シンと張り詰めた空気。


私の心臓の音が一番大きく聞こえているんじゃないかと思うくらいに。


眠気で頭が回らなくて、判断力が大きく低下している状態。


どうすれば良いかなんて、私には全くわからなかった。


ただ、早くどこかに行ってと願うことしか出来ない。


しばらくして、あのピアノの音が聞こえ始めた。


何も言わなくても、私と海琉はホッと吐息を漏らして。


「危なかったね。もう少し遅れてたら、白い物に……」


私の肩を掴んでいる海琉にそう言いながら、振り返った時だった。


トイレの個室の上部。


私と海琉を醜悪な笑顔で見る白い顔が、そこにあったのだ。