「来た……息を殺せよ。わかったな」


「うん……」


震える身体を海琉に支えてもらって、口と鼻に手を当てて呼吸音も止めるように。


音楽室には先生がいる。


どこから白い物が来るかわからなかったからここに隠れたけど。


もっと大胆に、目の前の階段で二階に下りれば、もしかしたら逃げられたかななんて思っていた。





「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」




声が……トイレの前を通り過ぎた。


音楽室から鳴るピアノの音目掛けて走っているのだろう。


音楽室のドアを荒々しく開ける音が聞こえて……ピアノの音が止まった。


今のうちに逃げるべきか……それともここで安全になるまで待つべきか。


逃げたいと思う気持ちは強いけど、頭がボーッとして決断が出来ないでいた。


そんな時だった。


その声を聞いたのは。


「キミは……いや、待て待て!何が……何で!ぎゃあああああああああああああっ!!」


和田先生が……噛み付かれたの?


ゆっくりピアノなんて弾いてるから逃げられずにいるんだよ。


「あぎゃ!ぎゃあああああああああ!げぶっ!も、もう……ひぎゃっ!ごふっ!や、やべで……ぐほっ!」


その声に合わせて聞こえる、何かが折れるような音が聞こえて……私は違和感を覚えた。