恐らく、反対側の校舎の壁に設置された消火設備の蓋に当たったのだろう。


バァン!という金属の激しい音が聞こえて、海琉が慌てて階段を駆け上がって来た。


「海琉!?何して……」


「静かに!今の音ならあいつも……」


階段の踊り場の端に寄り、耳を澄ますとピアノの音がまた途切れた。


そして。



「…………ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!」



という笑い声が、階段の下の廊下を猛スピードで駆け抜けて行って。


恐らく、海琉がコンクリートをぶつけた場所まで移動したのだろう。


「まだだぞ。まだ動くなよ?」


耳元で囁いた海琉の声が、私の身体をゾクッと震わせる。


小さく頷き、私はその時を待った。


何分……いや、この眠気に負けそうになる状態では、何時間にも匹敵する長い時間を待っただろう。


ピアノの音がフェードインするように聞こえ始めて、私はホッと胸を撫で下ろした。


「さあて、これであいつが遠くに行ってくれていればいいんだけどな」


わざと大きな音を出して、白い物を引き付ける……か。


音を立ててはいけないと考えていた私にとって、その発想はなかったよ。


でもこれで、あっちの校舎に向かえる。