シャリ……。


シャリ……。




その音がいよいよ階段の下までやって来た。


私達がここにいることに気付いたのか、足音が……動かない!


早くどこかに行ってよ!


何を悩む必要があるのよ!


こんなに近くにいるから、少しでも身体を動かせば衣擦れの音でさえ聞こえてしまいそうで。


呼吸音すら白い物の耳に届いてしまいそうで、息も出来ない。




「アア……アアア、アア……ナキャ……イヲ……」




え?


何?


これは、白い物の声だと思うけど……何か言ってる?


いや、確かに白い物は小さく口を動かして何かを呟いているけど。


何を言っているかはわからないけど、こんなにハッキリと聞こえたのは初めてだ。


「アア……ァ、アア、ア……イヲ」


唸り声と意味不明な声。


それが、徐々に遠ざかって行って。




シャリ……。


シャリ……。



という足音が聞こえなくなるまで、私達は身動き一つ取れずにただ座っていることしか出来なかった。


聞こえる……ピアノの音が聞こえる。


鼓膜を優しく震わせるその音に安堵した私は、海琉の手を外して安堵混じりの吐息を漏らした。