この先生が何を知っているのかはわからない。


何も知らないかもしれないけれど、その言葉は私達に安心感を与えてくれた。


もしかしたら何とかなるかもしれない。


この悪夢が終わるかもしれないと。


「とは言え……僕は過去から逃げた人間だ。まさか再びあの悪夢と戦う事になるとは思わなかったよ。あの時逃げなければ、何か変わっていたのかな?いや、きっと変わっていたのは僕が死ぬことになっていたということだけだろうね」


「……いや、あの。感傷に浸るのは結構なんですが、夢のことについてですね……」


遠くを見詰めて自分に酔っている様子の先生に、思わず光星が突っ込みを入れる。


なんか、変わった人だな。


ピアノを弾いている時はあんなに素敵なのに。


「ああ、すまないね。だけど今言ったように、僕は過去から逃げた人間なんだ。まずはその悪夢がどんな物かを教えてくれないか?鮮明に覚えているのは、死の苦痛だけだからね」


「えっとですね……このノートに書いてあるんですが。次のページに例の言葉が書かれていますから、気を付けてください」


光星はそう言い、ノートの表紙を捲って先生に手渡した。


「ふむ。知ってはならない言葉、白い物、目が覚める場所……か。この白い物……恐らく間違ってはいないと思うけど、どんな姿の幽霊なんだい?」