「必ず帰ってこいよ。約束破ったら、承知しないからな」
「うん、約束ね」
次の瞬間。やわらかく、温かいものが僕の唇に触れた。
莎奈匯は僕に口づけ、今までで一番幸せそうに笑った。
「ありがとう、蓮」
莎奈匯が去った後の保健室で、僕は呆然としていた。
僕の顔は莎奈匯からの口づけで赤く染まっていた――――のではなく、涙で視界が霞んでいた。
悟ってしまった。莎奈匯の、本当の気持ちを。
僕は莎奈匯の口づけに込められた本当の意味を知り、絶望した。
莎奈匯は過ぎ去る瞬間、確かに僕の耳元で囁いた。
『バイバイ』
「……バカはどっちだよ」
静寂が包み込む保健室の中、僕はその場で泣き崩れた。
恐怖と寂寥(せきりょう)が、僕の心を埋め尽くしていた。