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 僕は誰もいない保健室で、溜息をついた。莎奈匯とは、もう半月ほど会っていない。

 命の期限を僕に伝えた莎奈匯は、それから一度も保健室に顔を見せることはなかった。

 校内ですれ違っても、声をかけることはできなかった。

 季節は移り変わる。莎奈匯は来年三年生になり、僕は高校を卒業する。

 二十歳まで生きられないと告げられたあの日から今日までは奇跡のような毎日だった。

 これから先、待ち受ける未来も、過ぎるたびに奇跡に変わっていく。



 僕はおもむろにソファから立ち上がり、莎奈匯の特等席である窓側のベッドを覗き込む。

 そこに人の気配はなく、綺麗に畳まれた布団が重なっているだけだった。

 僕は大きな溜息をつき、窓側のベッドに倒れ込む。ドサリと重さで沈み込んだバネが悲鳴を上げた。静寂に包まれた空間。授業中の保健室は、異質だ。

 なにも聞こえない空間にいると、信じたくない妄想が浮かんでくる。





「……バカらしい」





 僕は頭に浮かんだ考えを否定するかように髪の毛をくしゃくしゃと掻き乱す。

 空虚な日々を続けていた、そんなある日。

 いつものように時間を潰していた。保健室の先生が会議のためにいなくなるこの時間、僕は保健室を頻繁に訪れる。急病を除き、普段は滅多に利用者がいないからだ。

 その日は珍しく訪問者が現れた。





「莎奈匯……」