笑顔を見せ、那音は旅立った。
那音の姿が完全に見えなくなると、智淮さんは安堵の溜息をついた。
「よかったな」
智淮さんの顔を覗き込む。智淮さんは顔を真っ赤にして泣いていた。
「蓮くん……ありがとう」
智淮さんは幸せそうに笑っていた。
「べつに」
途端に照れ臭くなり、視線を逸らした。
人に感謝されるのは、慣れていない。
「よかったな」
「うん」
空は夕焼け色に染まっていた。
後日、海愛にこの話をすると、海愛は寂しそうに言った。
「蓮は、私の前から突然いなくなったりしないでね」
「しないよ」
海愛の言葉に僕は少し考える仕草をした。
やがて訪れる日を、海愛はどうやって乗り越えるのだろう。
「約束だよ」
その日がきたら、海愛には気の済むまで泣いてほしい。我慢せず、感情を露あらわにしてほしい。
「約束するよ」
だから今だけは、笑っていて。
「蓮、好きよ」
海愛は頬を赤く染めながら、笑顔を見せてくれた。
「知ってる」
ほんの些細な幸せが心地よい。
僕は海愛に優しく微笑みを返した。