「那音!」





 その歩みを、智淮さんの声が遮さえぎった。智淮さんの声に、那音の足が止まる。





「あたし、遠距離恋愛でも大丈夫だよ」





「…………」





 智淮さんの言葉を、那音は黙って聞いていた。





「那音となら、離れても、大丈夫だから……」





「…………」





「だから簡単に別れるなんて言わないでよ。その方が、離れるより何倍も悲しいよ……あたし、那音のこと本当に愛してるから」





 智淮さんは言いたかった言葉を全て吐き出した。





「…………」





 那音はその場に立ち、背中で智淮さんの言葉を聞いていた。肩が震えている。那音は泣いていた。智淮さんに背を向けたまま、震える声を精一杯隠しながら。





「バーカ」





 那音は言った。





「そうだよ、バカだよ。知ってるじゃない」





 智淮さんは震える声で言った。





「智淮」





「なに?」





 那音は振り返り、涙でぐちゃぐちゃになった顔で言った。





「……オレ、お前のこと大好きだわ」