*   *   *





 那音は搭乗口手前のエスカレーター付近で待っていた。けれど、約束の時間になっても親友の姿は現れない。那音は溜息をつき、歩き出す。



 その時だった。





「那音!」





「……え?」





 那音は目の前に広がった光景に目を丸くした。





「蓮、どうして智淮がいるんだよ」





「言っただろ、見せたいものがあるって」





 僕は乱れる呼吸を整えながら、額の汗を拭う。智淮さんは堪えきれず泣き出してしまった。





「智淮……」





 那音も泣きそうな顔をしていた。





「あたしは理由が知りたい。どうして別れようなんて言ったの?」





「どうして? それを知って、お前はどうするんだよ」





 智淮さんの言葉を那音は冷たい言葉で切り捨てる。

 このまま泣き崩れてしまうだろうか。そう思ったが、智淮さんの様子は変わらなかった。

 智淮さんはハッキリとした口調で答える。





「あたしはまだ那音のことが好き」





 那音はなにも答えない。そのまま背を向け、歩き出そうとする。

 那音は本当になにも言わず、このまま旅立つつもりなのだろうか。僕は悔しさを滲ませ、奥歯を噛み締める。





「……元気でやれよ」





 那音は振り返り、寂しそうに笑った。

 歩き出そうとする、