智淮に別れを切り出したのは紛れもない自分だ。どうしてそんなことを言ってしまったのか、それは智淮のことを考えての決断だった。

 智淮は昔、幼馴染と遠距離恋愛をしていた。





『智淮が高校に入学したら、大人になった俺が迎えにいくよ』





 幼い頃交わした約束を信じ、智淮は四歳年上の幼馴染とメールのやりとりだけの、つたない恋愛を続けていた。

 智淮が中学二年生になった頃、遠距離恋愛はある日突然幕を閉じた。



【彼女できた。別れよう】



 短い業務的な別れのメールを最後に、幼馴染とは音信不通になった。

 その後、智淮が寂しさを紛らわすため、告白したのがオレだった。

 オレが智淮にこの話をされたのが高校に入学してすぐの頃。オレは智淮に全てを打ち明けられた後も、別れようとは言わなかった。



 ――――愛していたから。



 無責任だったと泣きながら謝り、今は本当に愛していると告げた智淮。オレは彼女を深く愛していた。そんな智淮にもう一度、遠距離恋愛を強要することなど、オレにはできなかった。





「もう遅い、か」





 苦笑いを浮かべながら腕時計を見つめる。

 迫る搭乗時間に溜息をつきながら、オレは蓮が到着する前にキャリーケースを引いて歩き出した。