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 真澄那音は蓮に言われた言葉を思い出していた。





『智淮に言わなくていいのか?』





 言わなかったのは、自分なりにけじめをつけたつもりだった。オレから一方的に別れを切り出した智淮に、今さらなにを言うことがあるだろう? けじめをつけなければ、先に進めない。そう思っていた。

 オレは過去に忘れられない経験をしたことがある。

 小学五年生の時、オレは転校生の女の子に一目惚れした。笑顔が可愛い、背の小さな女の子だった。話をするうちに仲良くなって、一緒に帰るような仲になった頃、夕日が沈む道を背景に、彼女は言った。





『那音くん、あのね、私ね、来月転校することになったの』





『えっ! 急だね』





 彼女は全国を渡り歩く劇団の女の子で、転校は何度も経験しているという。

 幼かったオレは、最後のチャンスとばかりに彼女に自分のありったけの想いを伝えた。





『好きなんだ』





 オレの告白に、彼女は困ったように微笑んだ。その後、彼女はなにも言わず、転校してしまった。淡い初恋の記憶。

 中学二年生になったオレは同じクラスの智淮に告白され、つき合うことになった。喧嘩もした。泣かせてしまったこともある。それでも今まで仲良くやってこれたのは、仲直りするたびに彼女に何度も恋をしてきたからだ。



 智淮の存在はオレにとって空気と呼べるものだった。いつも隣にいるのが当たり前で、高校が違う今でも、中学からの友人には老夫婦と言われるくらい。

 恋とはなんと儚いものだろう。何年も共に育んだ愛でさえ、たった一言で消えてしまう。

 儚く散った初恋の思い出のように、オレはまた、大切な人を失おうとしていた。





「オレだって、わかんねぇんだよ」