「いや、なんでもない」





「……じゃあ、まぁ……そういうことだから、今までありがとうな」





「なんだよ、一生会えないみたいなその言い方は」





 携帯電話の向こう側で那音の笑い声が聞こえた。





「そうだな、悪い。またこうやって、たまに電話してもいいか?」





「ああ、いいよ」





「お前がそう思ってなかったとしても、オレはずっとお前の親友、続けるからな! お前に拒否権はない!」





 必死な声色に、思わず吹き出してしまった。

 那音はずっと前から僕の親友を名乗り続けてきた。言っても止めないし、拒絶しても何度だって舞い戻ってきた。

 そんな関係に慣れてしまった今、僕にとって那音とは、どのような存在なのか。親友なのかと尋ねられたら、今なら素直に首を縦に振れるかもしれない。





「僕も、親友だと思ってるよ」





 僕は那音を親友と認めた。人に関わりたくないと思って生きている僕の周りには自然と深い人脈ができ上がっていく。これは必然なのだろうか。





「え……え? あ、おう! 親友!」





 那音の慌てふためく様子は電話越しでも十分に伝わる。

 僕は手に持っていたシャープペンシルを回しながら、夜遅くまで親友との会話に華を咲かせた。会話の合間、僕はこれからのことを考えていた。

 果たして智淮さんは、那音の言葉に素直に従ったのだろうか。



 好きならば、自分の気持ちに正直に従えばいい。遠距離恋愛はできない。それはやってみなければ分からないことだ。

 好きな相手には、正直な気持ちを伝えることが大切だと思う。伝えられるチャンスがあるうちに、しっかりと。



 ふと時計に目をやると、針は二十三時を示していた。





「智淮さんには明日電話するか……」





 僕は大きく溜息をつき、ベッドへ倒れ込んだ。