「オレが智淮に別れようって言ったんだ……」
言い終わると、那音は再び鼻を啜る。
泣き喚きながら電話をかけてきた奴だ。よほどツラかったのだろう。だとしたらなぜ、自分から別れを切り出したりしたのだろう。
僕はまず、ありえないであろう理由を那音にぶつける。
「浮気した?」
「んなわけねーだろうが!」
案の定、怒られた。当然だ。僕もその答えへの肯定は一番聞きたくなかったものだったから。
悪い、と謝罪する。那音はさらに重要なことを言った。
「それとオレ……引っ越すことになったから」
那音の言葉に僕は固まる。数秒間の沈黙の後、恐る恐る那音に尋ねた。
「どこに?」
「……北海道」
「遠いな!」
予想外の場所に僕は思わず叫んだ。
電話の向こう側で那音の溜息が聞こえた。
「だろ? マジふざけんなって話だよな……」
那音が智淮さんと別れた理由が僕にも少しだけ理解できた気がした。
「それで……別れた理由はあれか? 遠距離恋愛になるから?」
「だって、堪えらんねーよ! オレ、お前みたいに強くねーし、どっちかって言えば女々しいし……」
こんなに弱気な那音を見たのは初めてだった。
「お前、もしかしてまだ……」
「え、なに?」
智淮さんのこと、好きなんだろ?
言葉をのみ込む。今、僕がなにを言ったところで那音は聞く耳を持ってはくれないだろう。絶対否定するに決まっている。僕が知っている真澄那音とは、そういう男だ。