僕の要望に、海愛は顔を真っ赤にして合わせていた視線を逸らす。

 僕は、心に巣食った虚無を感じていた。海愛に近づけば近づくほど、圧倒的な違いを感じてしまう。

 僕は、幸せな人生を歩む海愛の足枷あしかせになっているのではないだろうか。

 そう考えると、胸が締めつけられ、呼吸が苦しくて仕方がない。

 悔しい。悲しい。どうして僕は普通の人生を望めないのだろう。





「え、だって、恥ずかしい、よ……」





 海愛はもたれかかっていた僕の肩から体を起こし、戸惑っていた。

 愛しくてたまらない。すこしだけ意地悪したくなる。





「だーめ。さっきも僕のこと、また蓮くんって呼んでたしな? 残念だけど、拒否権はないよ」





 この小さな体で、これから背負う沢山の悲しみにはたして堪えられるのだろうか。

 僕は不安にかられ、温もりを確かめるように海愛を抱き締める。

 最初は軽く抵抗していた海愛だったが、諦めたのか、そっと僕の背中に手を添える。その行動に、思わず泣きそうになってしまった。





「ねぇ、海愛」





「……ん?」





「快気祝いに海愛の好きな場所、行こうか。あの駅前のケーキ屋でも、隣町の水族館でも、なんでもいいよ」





 生きている限り、海愛のしたいことをできる限りやらせてあげたいと思っていた。僕のせいで彼女の人生を縛りつけてしまうことだけは、絶対に嫌だったから。



 海愛は首を横に振った。





「ん?」





「私、こうしてるだけで幸せだから」





 海愛の言葉に胸が締めつけられる。

 僕は以前に一度、海愛の目の前で倒れたことがある。その時のことを気にしているのだろう。海愛の選択は、僕の体を思ってのことだった。





「じゃあ、ひきこもる?」





「言い方が暗くない?」





 海愛は僕の提案にハハハと笑い声を上げ、抱き締めていた腕を解いた。離れていく海愛の体。





「いいんだよ」





 名残惜しさを感じながら、細やかでも僕は確かに幸せを感じていた。