*   *   *





 ピンポーン。



 海愛の家のインターフォンを押した僕は辺りを見渡していた。

 見事に咲いた花たちは季節の移ろいと共に元気を無くし始めている。もうじき枯れてしまうだろう。

 深呼吸したところで、玄関の扉が開いた。





「はーい! どちら?」





 顔を出したのは海愛の姉、雨姫さん……ではなかった。見知らぬ女性が首を傾げながらこちらを見ている。

 落ち着いたブラウンのストレートヘアに少しだけ、年齢を感じさせる目元の小皺。なにより驚いたのは、女性の瞳の色だ。真っ青とまではいかないが、くすんだ青い瞳。日本人離れしたその容姿に僕はふと、以前、海愛から聞いた家族の話を思い出した。



 日本人の父親。イギリス人と日本人のハーフである母親。その両親から生まれた雨姫さんと海愛。だとすれば、目の前の女性は海愛の母親なのだろう。

 僕は海愛の母親に、もう一度頭を下げた。





「初めまして、櫻井蓮と言います。海愛さんとは」





「あらあらあら! あなたが蓮くんなのね!」





 前にも似たような場面に遭遇した気がする。親子とは、ここまで似るものなのだろうか。

 僕は苦笑いを浮かべながら海愛の母親に会釈した。





「あはは……お世話になってます」





「海愛ったら! こんなカッコいい彼氏がいるなんて知らなかったわよ!」





「は、はぁ……」





「とりあえず、上がって!」





「お邪魔します」





 雰囲気に圧倒されながら、僕は玄関に足を踏み入れた。木の香りが鼻孔を抜け、肺に染み渡る。

 紅茶を持った海愛の母親と共に海愛の部屋に足を踏み入れる。海愛はベッドの上で携帯電話を弄っていた。