「はい」





 それでも僕は、まっすぐ雨姫さんを見つめ、宣言した。僕の返答に雨姫さんの表情が緩んだ。





「いい返事。気をつけて帰りなさい!」





「お邪魔しました」





 雨姫さんは笑顔で玄関の外まで僕を見送ってくれた。

 妹思いの優しい姉。幸せな家庭。海愛は平凡な幸せの中に生きていた。

 そんな中に、土足で足を踏み入れた僕。



 僕は海愛と一緒にいていいのだろうか。



 それは何度も悩み、苦しみ、未だ正しい答えが見つからない難問。

 海愛の幸せを願えば、すぐにでも離れてしまった方がいい。しかし僕にはもう、海愛のいない人生を生きていく自信がない。暗い闇の中、やっと見つけた眩しい太陽。光を追い求める姿は、灯りに群がる夜光やこう虫ちゅうのようだ。

 僕は大きな溜息をつき、ポケットの中の指輪をそっと握り締めた。