「熱もまだ上がってるみたいだし、僕がいたら海愛が休めないだろ?」





「平気だもん」





 口では強気な言葉を発してはいるが、頬が赤い。荒い呼吸を繰り返す海愛に思わず苦笑した。





「いいから寝ろ。命令」





「えー」





「治ったら、お前の好きなケーキ奢ってやるから」





「本当? うん、約束!」





 途端に瞳を輝かせる海愛。元気そうな姿に僕はホッと胸を撫で下ろした。





「じゃあ、お大事に」





 ゆっくり戸を閉め部屋の外に出る。

 我慢していたのだろう。途端に部屋の中から咳き込む海愛の声が聞こえた。

 階段を下りると、雨姫さんが台所に立っていた。雨姫さんは僕に気づき、声を上げた。





「あれ、もう帰るの? 今からご飯作るんだけど、一緒にどう? お粥だけど」





「あ、大丈夫です。ありがとうございます」





「そう? 気をつけてね!またおいでよ」





「はい、お邪魔しました」





 愛想笑いを振り撒き、僕は海愛の家を後にした。



 帰り道、自分の体の異変に気がつく。カタカタと小刻みに痙攣けいれんする左手。そこで僕は薬をのみ忘れたことを思い出し、溜息をついた。

 終わりの時は確実に迫っている。その事実をねじ曲げることなど誰にもできない。



 海愛、ごめんな。こんなに弱い体で、ごめん。僕は今日も、君に謝ることしかできない。