「痛いな……もう。じゃ、ごゆっくりどうぞ」
雨姫さんは海愛と衝突してしまった箇所を涙目で痛そうに擦りながら、部屋を後にした。
静まり返った室内。海愛は蹴飛ばした布団を被り、動かない。
「海愛?」
恐る恐る海愛に声をかけると、次の瞬間、布団は勢い良く宙を舞った。
「もーお姉ちゃんの馬鹿!」
海愛は顔を真っ赤に染めながら、近くに置いてあったマスクに手を伸ばす。
「あ、蓮はあんまり私に近づいちゃダメだよ。うつったら大変だから」
「大丈夫だよ。それにしても雨姫さん、すごいな」
「……あはは」
海愛は苦笑いを浮かべながらベッドの端に腰かける。
海愛に姉がいることは初めて知ったが、よく似ている。海愛がもう少し大人になったら、雨姫さんのようになるのだろうか。
「あ、お見舞い、雨姫さんに渡しておいたから」
「え?」
「ゼリーなら食べられるだろ? お前、桃好きだったよな?」
僕の言葉に海愛は頬を染め、嬉しそうに微笑んだ。
「……ありがとう」
僕も満足そうに微笑み、思い出したように海愛の方へと歩き出す。