「貸して」





 涙を流す海愛の手から指輪を受け取り、僕は海愛の右手の薬指に指輪をはめた。もう一つは自分の指へ。ピタリとはまった指輪の理由は事前の情報調査の成果だ。

 いつか本物の宝石で飾られた指輪を、海愛に贈るため。それは、これから先も生き続けるという自分に課した誓いだった。





「エンゲージ?」





 海愛は右手の薬指を見つめながら聞いた。

 いつか必ず、本当の意味での幸せを君に贈る。海愛の薬指で輝きを放つ指輪は、僕らの未来を表しているのだろうか。そうでなくても、信じたい。今、この時だけは。





「……僕は正直いつまで生きていられるか分からない。だから今、将来の約束していい?」





 事実上のプロポーズのつもりだった。

 不思議と恥ずかしさはなく、自然と言葉が口を伝う。

 これは僕のエゴだ。海愛に一緒になってほしくないと言いながら、こうして矛盾した行動をとる。それは僕の本心が海愛と共に生きる未来を選択し、身勝手な感情のまま、海愛を縛りつけてしまいたいという醜い独占欲の表れだった。

 生に執着すればするほど、僕の生き様は泥臭く、汚れていく。





「私、これを受け取る資格……あるのかな」





 海愛は右手の薬指にピタリとはまる指輪を見つめながらうつむいてしまう。小さく丸められた背中が彼女をさらに小さく見せる。

 僕は海愛の肩を抱き、言った。





「あるから渡したんだ」





「うん……ありがとう」





 彼女は泣いていた。肩を震わせる海愛に寄り添いながら、僕は静かに見守っていた。





「泣き過ぎだろ」





 思わず吹き出すと、海愛は涙で震える声で答える。





「……嬉しくて」





 気がつけば、海愛を抱き締めていた。





「蓮、苦しいよ」





 胸板を押されるが、それでも僕は抱き締めた腕の力を弱めることはしなかった。