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「海愛、過ぎちゃったけど、誕生日おめでとう」
月日は流れ、日曜。真夏の気候も終盤になり、外出を躊躇ためらうことも少なくなった。かと思えば残暑が外出をはばむ日も少なくない。
その日は雨が降った前日までの天気が嘘のように晴れ、気温は真夏日を記録した。
「蓮も、過ぎちゃったけど、誕生日おめでとう」
海愛と僕は笑い合い、過ぎたお互いの誕生日を祝った。
周りの人間に言わせてみれば、「どうして過ぎてしまった誕生日をわざわざ祝うのか、来年もあるだろうに」などと言われても仕方ないが、僕らにとって「来年」という言葉ほど不確かなものはない。来年まで、僕が生きているとは限らないのだから。
僕は無理をしてでも、大切な人が生まれたその日を祝いたかった。女々しいと言われてもいい。後悔はしたくないから。
「ありがとう。お互い、十八歳だな」
「結婚できちゃうね」
海愛の幸せそうな笑顔につられ、僕の表情が緩む。海愛は僕の肩に寄り添い、愛しそうに擦り寄る。距離は自然と近づき、重なる唇。二度目のキスは、唇が一瞬触れただけ。触れた、触れない、というところで海愛は閉じた瞳を開く。
海愛は恥ずかしそうに笑っていた。
「はい、これ」
僕は小さな箱を取り出し、海愛に手渡す。
薄い桃色で、海愛の両手に収まってしまうほど小さな四角い正方形の箱。四方をキラキラと光るリボンが飾っている。
海愛は手渡されたプレゼントに首を傾げた。
「なに?」
「開けてみて」
ずっと一緒にいよう。
そう言ったものの、本心はやはりそれだけでは満足できなかった。どうしても形に残るプレゼントを贈りたくなり、僕は町を歩き回ることにした。そうして見つけたプレゼント。
丁寧に装飾を取り外し、箱の中身を見た海愛は、その場で泣き出してしまった。
想定していなかった反応に、僕は動揺を隠せない。
「……指輪?」
学生の僕に高価なプレゼントは贈れない。
小遣いの範囲でようやく見つけたのは、道端のアクセサリーショップで勧められたシルバーのペアリングだった。