あれから一か月。僕は無事に病院を退院した。
「ねぇ、蓮くん」
「蓮、だろ?」
僕と鈴葉はお互いを名前で呼び合うように決めていた。僕は彼女を海愛と呼び捨てにできるようになっていたが、海愛は未だ慣れていない。
呼び方を間違えると、呼び名を訂正する。
海愛は何度も僕の顔色をうかがう。
「……蓮」
名前を呼んだだけで海愛は顔を真っ赤に染めた。
「緊張しすぎ」
顔を赤く染める海愛に、思わず吹き出してしまう。
「うるさい……」
しばらく笑いながら話をしていると、海愛がおもむろに口を開いた。
「そういえば、蓮の誕生日っていつなの?」
「僕? 七月十日」
「あー……なんかそんな顔してる」
海愛はクスクスと笑った。
「なんだそれ。つーか、お前は?」
「名前で呼んでくれるんじゃなかったの?」
完全に反撃された気分だった。
だけど海愛。僕は平気なんだからな。絶対、照れてなんかやらないからな。
「はいはい。海愛は、いつなの? 誕生日」
「私は八月二日」
「なんだ、僕たち夏生まれじゃん」
「そうだね! あーあ、誕生日かぁ……もう過ぎちゃったしなぁ」
「過ぎたけど、僕が祝ってやるから」
「本当?」
僕の言葉に海愛の瞳が輝く。
「誕生日、なにかリクエストはある?」
僕の言葉に、海愛は首を横に振った。
「私は、蓮と一緒にいられればそれだけで十分だよ」