僕の告白を母は無言で聞いていた。そしてゆっくりと頷き、口を開いた。





「それが彼女なのね……あの子ね、蓮が目を覚ます直前まで泣いてたのよ……救急車であんたが運ばれた時も、何度も名前を呼びながら、『蓮くんは死なないですよね!?』って。私、びっくりしたわよ」





「鈴葉が……」





 途端に、僕の中でなにかが壊れた。塞ぎ止めていた感情があふれ出す。感情は涙となり流れようとする。僕は涙を必死に堪え、天井を見上げた。





「少し、一人にしてくれないか」





「え?」





「頼むから……一人にさせてくれ」





 僕は天井を見上げたまま、母に懇願こんがんする。

 母は僕のただならぬ気配を感じ取ったのか、無言で病室を後にした。

 母が去った後、病室に残された僕。両目からは大粒の涙があふれ出した。





「……っ!」





 止まらない感情。個室中に静かに響く泣き声。





「……ううっ」





 脳裏に浮かぶ彼女の笑顔。

 ねぇ鈴葉。どうして君はそんなに僕を想うことができるの?

 涙が止まらない。こんなにも感情が剥き出しになるのは初めてだ。

 死にたくない。もう、彼女を苦しめたくない。花のように笑う君だけを見ていたい。

 神様、どうして僕を選んだのですか? 他にも人間は沢山いるはずなのに、どうして。





「……どうしてなんだよ」





 僕はその場で泣き崩れた。





「ふざけんな!」





 拳に行き場のない怒りをぶつける。





「……くっ……生きてぇよ……死にたくねぇよ……」





 痛い。拳が、胸が、心が。



 死ぬことは、想像もつかない痛みを伴ともなうのだろう。途方もない苦しみと悲しみが襲うのだろう。この先、果たして僕に幸せは訪れるのだろうか。僕が不幸になる分、彼女が幸せになってくれたらそれでいい。同じ時間を共有し、愛を分かち合う。それだけで十分だ。



 僕はそのまま泣き疲れ、眠りについた。

 夢を見ることもなく、眠り続けた。